徐狼三國志
この話はフィクションであり
実際の三國志とは何の関連もありません。
第六話 再会
徐庶は劉備のもとへ急いでいた。
夜中も馬を飛ばし、寝る時間も惜しみ、
果ては、一睡もしないときすらもあった。
徐庶はなぜ急いでいるのかというと、
まず一つに、早くこのことを劉備に伝えて、
先に起こる戦争に備えさせるためであり、
また、劉備に早く会いたいという気持ちがあった。
ある日、徐庶が疾風の如く、馬を飛ばしていると、
馬が、何かにつまずき、馬が走れなくなってしまった。
馬をつまずかせたのは、なんと、子供の遊び道具だった。
そこに、子供の母らしい人が現れて、
「すみません、子供がおもちゃを置きっぱなしにしてしまって・・・。
どこか、お怪我はありませんでしたか?」
「いえ、私は大丈夫ですが、馬の方が・・・。
代わりになる馬はありませんか?」
「えっ、馬ですか?私のところではちょっと・・・。
あっ、では、ぜひうちにきてください。
明日の朝には、馬をおもちしましょう。」
「どこかあてでもあるのですか?」
「はい、私の親戚が馬を何頭か飼っていまして・・・。
そこに、怪我をした馬をつれて行きまして、
代わりの馬を一頭つれてくるのです。
それで、今度ここを通りなさるときに
馬を取りに来ていただければいいのですが、よろしいでしょうか?」
「それは、ありがたいことです。
ぜひ、そうさせてください。」
「では、何分狭苦しい家ではございますが、
どうぞ、いらしてください。」
といって、徐庶はその家へ案内された。
来てみると、なかなか立派な家で、
徐庶は感嘆していた。
「では、こちらの部屋でごゆっくりお休みください。
お食事の際は、呼びにきますので・・・。」
「ありがとうございます。ご迷惑お掛けします。」
徐庶は久しぶりにゆっくり休んだ。
「お食事ができました。」
と、呼びにきてくれたので、食卓へいった。
徐庶は、家の主人を見るや否や、
「ご迷惑お掛けします。すみません。」
と、いった。
「いえ、妻から聞きました。
こちらこそ、多大な迷惑をおかけしました。
ゆっくりしていってください。」
と、主人も返事をした。
どうも、この主人、学者らしく、
儒学から、文学、果ては、生態学にいたるまで、精通していた。
久しぶりに徐庶も、この主人と長話をしていた。
なかなか、有意義な時間だったらしく、
徐庶も主人も、別れを惜しんでいた。
「これが、代わりの馬です。」
「ありがとうございます。また、戻ってきますので・・・。」
「また、機会がありましたらお尋ねになってください。」
「はい、そうさせてもらいます。」
「では、お別れですな。」
「また、お会いしましょう。」
といって、徐庶はその家を去った。
徐庶は劉備の元にやっと到着した。
劉備は、徐庶がきた事を知った時、とても喜んだ。
しかし、このような時期に会う事を嘆じた。
徐庶は、改めて、次のようにいった。
「曹操が、あなたに降伏を勧めるのは、
民心の怨嗟を転化させる為の奸計であります。
もし、あなたがこれを承諾したならば、一生を悔いる事になりましょう。」
「徐庶よ、また、わしの所で仕えぬか?」
「いえ、それもできません。
私は、母も死んでしまい、敵の陣営に飼われる身となり果てましたが、
もし、裏切ったならば、
天下は私の節操を疑い、また、笑うでしょう。
これも、宿命と思い、ただ、この一言を伝えに参ったのみであります。」
また、徐庶は、帰り際に劉備にいった。
「今、あなたは、逆境の中の逆境に身を置いています。
さぞかし御心は不安でいっぱいでしょう。
しかし、あなたの御辺には、必ず、この孔明先生がいます。
かならず、あなたの大志を助ける事でしょう。
私は、世の為に何もはかる事のできない状況に置かれていますが、
あなたの大業を影で応援して、
また、楽しみにしております。
では、くれぐれも健勝に・・・。」
といった。
徐庶は、諸葛亮の方をむいて、軽い会釈をした。
諸葛亮は、この意味が分かったらしく、会釈を返してきた。
「さて、我が君の為にも、出来る限りゆっくり帰らないといけないな。」
といって、徐庶は馬を進めた。
すなわち、また、あの主人のもとへいったのである・・・。
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