徐狼三國志
この話はフィクションであり
実際の三國志とは何の関連もありません。
第十一話 呉
諸将は劉備を追撃していた。
曹操自身は意気消沈していた。
無理もないだろう。あれだけの失態を見せてしまったのだから・・・。
「丞相!!」
見かねた荀攸が曹操に声をかけた。
「なんだ荀攸。」
「劉備を追いつめるには大将らだけでは不十分と思います。」
「?・・・なぜた?」
「劉備には孔明がついています。
大将らの智恵では孔明には絶対に勝てませぬ。
ですが、丞相の智恵ならばそれも可能です。
丞相も追撃なさって下さい。」
「可能性があるか・・・。まるで勝てない確率の方が多いといいたげな言い方だな。
・・・まあいい。では、私も追撃に参加するとするか。」
「それがいいと思います。いま、孔明はいませんから。」
「なに!?」
軍師らは声の方向を見た。
この声の主は徐庶である。
「では、あの策は孔明のものではないというか!!」
荀攸が言った。
「そうです。それにはふたつの根拠があります。
まず、最初に劉備軍を攻撃した時に劉備軍が大変な失態を見せた事、
いくら劉備軍に兵がいないとはいえ、
将を分散させてしまうような事は孔明はしません。
兵が少ないのに将を分散させたら、
劉備軍の力そのものを分散させてしまう事に等しいですからね。
そして、先ほどの策です。あれは見事なものです。
しかし、あのあと劉備軍は橋を落としました。
あれでは、『我が軍には兵はいませんよ。追撃して下さい。』と言っているようなものです。
あのような事も孔明はしないでしょう。」
徐庶はこのように言った。
「なに!?では、あの策は一体誰のものか!!」
曹操は声を上げていった。
「・・・おそらくは、張飛のものでしょう。」
曹操は声を失った。軍師らも同様であった。
「あの張飛がか・・・!?」
軍師の一人、劉曄が声を漏らした。
「ええ、そうです。張飛の策です。」
徐庶は答えた。
「ばかな!?あれほどの策、張飛にできるわけなかろう!!」
董昭は声を上げていった。
「では、だれが張飛に長坂橋を一人で守らせたのですか?」
「それは・・・。」
董昭は声を詰らせた。
「だれが張飛のような大事な将を一人で長坂橋を守らすのですか!?
そのような者いませんよ!!丞相、そのような輩、丞相の陣営にいたらどうします!?」
「なるほど・・・。私は張飛にしてやられたのか・・・。」
曹操はうつむいた。
「いいえ、あの状況ではどうしようもありません。
あの時すでに、士気は消沈していましたから、丞相の号令は正しい選択です。
それに、劉備軍に兵がいない事を悟ったらすぐに号令を改めたではないですか。
その号令で士気が復活しましたからね。結果的にはもしかするとよかったかもしれません。」
徐庶はやさしく言った。
しかし、徐庶は狙っていた。曹操が自信を無くすのを・・・。
曹操は自信を無くした事を表面にこそ表さないが、
内心落ち込んでいるに違いないと、徐庶は考えていた。
しかし・・・、
「確かにそうだな。落ち込む必要もないな。
徐庶よ、おまえの言葉で立ち直れそうだ。よし、私も追撃に参加するぞ!!
孔明はいない!!追いつめろ!!追いつめれば劉備の首を取れるぞ!!」
曹操本隊も追撃を開始した。徐庶は内心後悔しながら追撃に参加した。
しかし、曹操は劉備の首を手に入れる事ができなかった。
追いつめはしたが、ぎりぎりのところで孔明に助け出されたのである。
曹操はこのあと、江陵を占領した。
この夜の軍議のこと・・・。
「とうとうここまで来た。我々は劉備を江夏に追いつめたが、
劉備だけに固執してはならない。
次は呉の対応も考えなければならない。
荀攸よ。檄文を作れ。内容は分かるだろう。
使者を出すと同時に我々も動くぞ。明日までに準備をしておけ。
覇業を成し終えるの日は近いぞ。」
「おお!!」
徐庶はこのあと、自分の部屋にこもる事となる。
それは、もちろん、呉がどう動くかを考える為であった。
戦況が大きく変わるとともに、徐庶自身にも新たな策を要求されるのであった・・・。
勝つのは曹操か劉備か孫権か。それとも・・・。
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