徐狼三國志
この話はフィクションであり
実際の三國志とは何の関連もありません。
第十話 策士・張飛
曹操軍は趙雲のあとを必死で追いかけていた。
すると彼方から、文聘とその手勢がさんざんに逃げてきた。
「なんだ、これは!!」
曹操が声を上げる。
「実は、長坂橋のほとりまで、趙雲を追いかけていったところ、
張飛というものがただ一騎で趙雲に加勢しまして、
趙雲を取り逃がしたばかりか、このありさまで・・・。」
文聘が泣く泣く答えた。
「なんたる弱腰・・・この私が張飛を!!」
といって、諸将は先を争って長坂橋に向った。
(張飛・・・ただ一騎で何をするつもりだ?
まさか、この大軍と一人で戦うつもりじゃ・・・。)
徐庶は不思議に思いながらも後についていった。
徐庶も長坂橋に着いた。
(・・・ほんとだ・・・。ただ一騎だ・・・。)
「あれが張飛か?」
「なるほど・・・すごい形相だ。」
「さりとて、敵は一騎。」
「われわれが束になって勝てないわけがない。」
「それ!!いくぞ!!」
と、諸将が張飛にかかろうとすると、
「待て!!」
と、曹操が止めた。
「孔明の策に乗るな!!」
(孔明先生の策!?)
徐庶は辺りを見回した。
すると、張飛の後ろの森から砂煙が上がっているのに気づいた。
(孔明先生はいない・・・。これはなんだ?
孔明先生が残した策か!?・・・ははぁ・・・なるほど・・・。)
徐庶はにやりと笑った。
(この状況下で、張飛が長坂橋で守ることまでは孔明先生といえどわからないだろう・・・。
だとすれば、これは張飛の策・・・なかなかやりおる・・・。)
「孔明は森に兵を隠している!!うかつに手を出すな!!」
曹操は言った。
そのあと、張飛が口を開いた。
「やあやあ!!おまえは敵の総帥、曹操ではないか!!
われこそは、劉皇叔の義弟、燕人張飛である!!
いざぎよく勝負せい!!」
あまりの罵声に諸将は恐れおののいた。
諸将だけではない、曹軍全員が恐怖した。
まるで敗走している軍のように・・・。
「そうか・・・思い出した。
関羽が言っていたな・・・自分の義弟に張飛というものがいて、
自分の力など比べものにならないとか言っていたな・・・。
あの関羽を凌ぐ・・・まんざらでもない様だ。
まったく恐ろしい奴・・・。」
こう、曹操が呟いていると、よこから誰かが声を上げた。
「丞相!!恐れることはありません!!
丞相の配下には張飛以上のものがいる事をご覧ください!!」
この声の主は、夏侯覇であった。
夏侯覇は張飛の方に向っていった。
「来たか!!」
張飛は蛇矛を一振りした。
すると、夏侯覇は馬上から転げ落ちた。そして、夏侯覇は二度と動かなくなった。
その有様を見るや、曹軍の士気は消沈した。
「退け!!」
この言葉を聞いたもの全員が先を争って逃げ出した。
兵士のなかには武器を捨てたものもいたり、馬に踏み潰されたものがいたり、
曹軍の混乱は凄まじいものだった。
曹操自身もこの混乱に巻き込まれていた。
徐庶はというと、別に急ぐ必要もなかったので、
混乱の外でゆっくりと退いていた。
後を追いかけていた張遼がやっと曹操に近づいて、
「丞相、どうしたのですか!!敵一騎にここまで乱れる必要はないでしょう!!」
といった。曹操ははっとして、全軍のたて直しを命じた。
そのあと曹操は、
「いや、張飛を恐れて退かせたのではない。
孔明が策を設けていたから、大事を取ったまでだ。」
といった。すると張遼は、
「敵は長坂橋を焼き払って退却しましたぞ。」
と、報告した。曹操は、
「橋を焼いた!?やはり、たいした兵力はなかったのか!!
よし、すぐに橋を架けろ!!玄徳を追いつめるんだ!!」
と、号令を改めた。
(時間を稼いだか・・・。しかし、玄徳様はどこに逃げたのだろう。
うまく、孔明先生と合流すればいいが・・・。
それに・・・たとえ、江夏に逃げたとしても、これからどうするつもりだ・・・。)
徐庶は考え込んでいたが、むなしく時間だけが過ぎていくだけであった。
目次に戻る